先日、現在東京上野の森美術館で開催中の「怖い絵展」へ行ってきた。10:00開場の30分前に着いたにもかかわらずすでに長蛇の列ができていた。最近では3時間待ちになることもあるとか・・・すごい!
最大の見どころは今回日本初公開のポール・ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」。わずか9日間のみ王位にあった16歳の若き女王の最期の姿を描いた、縦2.5m×横3mにおよぶ大作。
純白の死衣装に目隠しをしたグレイ姫が華奢な手で首切り台を探り当てようとしている。そして介添えする聖職者。その右に首切り役人。彼は底光りのする斧を持ち、赤いズボンに赤い帽子。その傍らの木製の首切り台は、斧で一撃を加えた時にずれないよう、鉄の輪でしっかりと床に固定されている。そして、斧で首を打たれる姫君の血が飛び散らぬよう、周囲には麦藁が敷かれている・・・
圧巻だった。絵から目が離せない・・・・。
ちなみに・・・
このほか、ターナー、モロー、セザンヌなど、ヨーロッパ近代絵画の巨匠の“怖い”作品など、近世から近代にかけてのヨーロッパ各国で描かれた油彩画や版画、約80点がテーマごとに展示されています。‘怖い’と言ってもグロテスクな何かの絵ということではなく心理的に、またその歴史を知っていればこそじわじわと怖さを感じるような・・・絵の数々です。
なぜこの美しい姫が殺されなければならなかったのか・・・を少し解説いたします。
1553年7月6日、童話「王子とこじき」のモデルと言われた少年王エドワード六世が、結核で崩御した。まだ十五歳という若さだった。彼は父ヘンリー八世から先天性梅毒を受け継ぎ、幼少より虚弱で、その命の長くないことは誰の目にも明らかだった。ヘンリー八世はそのことを見越して、王位継承第一位の彼に子供がなかった場合の王位継承順位について、第二位はメアリー王女、第三位にエリザベス王女、第四位にヘンリー八世の父ヘンリー七世の曾孫ジェーン・グレイ姫と決めていた。
16歳のジェーン姫は、厳格なプロテスタント(新教徒)、学問も出来き、美しい姫だった。そこで、一人の貴族の野望が(英国国教会(プロテスタント教会)の有力者、ノーサンバランド公ジョン・ダドリー)動きだした。ジョン・ダドリーはエドワード六世が結核で崩御する一月ほど前、彼の病床を訪れて、熱烈なカトリック教徒である王位継承第二位のメアリーは、プロテスタント(国教会派)にとって脅威であり、危険であることを説き、ついにジェーン・グレイ姫の男子の王位継承を指示した勅状を手に入れることに成功する。
こうしてダドリーは、ジェーン姫と自分の息子のギルフォードとを結婚させ、二人の間に生まれた男子を王位継承者とすることを図る。
しかし、この不穏な動きは、間もなくカトリックの貴族、ノーフォーク公トマス・ハワードが察知し、トマスは機先を制してメアリーを所領のフラムリンガム城に匿い、守るのだった。
7月6日、エドワード六世が崩御すると、その死は10日まで公表されなかった。これは、エドワード六世の崩御と同時に、彼の勅状を盾にメアリーを逮捕し、カトリック派を押さえ込んだ上で、ジェーン姫の王位宣言をするはずであったが、メアリーの避難によって大幅に狂わされてしまったためであった。
7月9日、メアリーを逮捕できないまま、ダドリーはグレイ姫に、亡きエドワードの勅命により王位継承者に指名された旨を告げた。
この時点まで彼女はダドリーの野望を全く知らされておらず、やがて事の重大さを認識するに至ると、自己の運命の余りに衝撃的な展開に、その場で失神したと伝えられる。
そして、翌10日、エドワードの死とグレイ妃の女王即位が発表された。
この突然のグレイ妃の王位宣言は、旧来の政敵(カトリック)たちの激しい反発を招いた。また国民の支持も圧倒的にメアリー王女に集まり、妹のエリザベス王女までも姉を支持。さらに本来味方に付くはずの国教会派(プロテスタント)の貴族たちをも反発。ダドリーは自分の私兵からも離反されるに至り、たちまちダドリー一族は一網打尽にされ、首謀者ジョン・ダドリーは処刑。
こうしてジェーン・グレイの王位は、あえなく9日間で終焉を迎えることとなった。
10月1日、敬虔なカトリック信者のメアリー王女は、チューダーの正統な王位継承者として即位した。こうしてエドワード時代のプロテスタント、メアリー時代のカトリックという国を二分する激烈な宗教対立を生むことになる。後に「ブラッディ・メアリー」の異名をとる(カクテルの名前でもおなじみですね)、
先にも述べましたが
童話「王子とこじき」のモデルになったのが若くして亡くなるエドワード6世。
劇団四季ではファミリーミュージカルとして、何度も上演されています。
劇中で子供たちには「人を見かけで判断してはいけない」ということを訴えていますが大人が観ると、その歴史的背景から、世の中の混乱を見て取れるし、その中でも一人、周りに惑わされず人の本質を見抜き自己犠牲により王子を助けようとする騎士の存在には、胸が熱くなる。
さらに、この賢い王子がこの後幼くして亡くなるのか・・・と思うと、観ていて切なさがこみあげてくる。もちろんミュージカル自体はそんなことは語られないし、王様に無事に即位して終わりを迎える。
王子と町のこじきが洋服を取り換えて、こじきが王宮で生活している時
周りのおつきの人たちは王子の頭がおかしくなったのかとオロオロするが・・・その中にレディ ジェーン・グレイがいる。ピンクのドレスを着た可愛い姫がそれだ。
この姫もこの後自分に降りかかる悲劇を知る由もなく・・・。
今後もし観劇の機会があればそんなことも想像してみてください。